失業保険は、退職理由や雇用保険の加入期間など、様々な要素を元に支給額が決定します。少しでも良い条件で支給されるには、どんな点について注意して失業保険の手続きを行えばいいのでしょうか。
この記事では失業保険の優遇を受けられる『特定受給資格者』『特定理由離職者』について解説します。
退職理由による失業保険の4つの分類
失業保険の手続き後、雇用保険の加入期間と退職理由、離職時の年齢を元に、給付日数と給付開始時期が決定されます。最も重視されるのは『退職理由』です。
退職理由を元に「特定受給資格者」「特定理由離職者」「一般受給資格者」として分類され、さらに「特定理由離職者」は「特定理由離職者ー1」「特定理由離職者−2」に分類されます。大きく分けて4つの分類が行われるということになります。
・特定受給資格者
・特定理由離職者−1
・特定理由離職者−2
・一般受給資格者
会社の倒産や解雇により、会社都合での退職となった場合は「特定受給資格者」になります。
自己都合で退職した場合は「特定理由離職者ー1」「特定理由離職者−2」「一般受給資格者」に分かれます。特定理由離職者は、仕事を辞めざるを得ない正当な理由で退職した人のことであり、「特定理由離職者ー1」「特定理由離職者−2」は退職理由により分類されます。
仕事を辞めたくて辞めた人は「一般受給資格者」になりますが、辞めた理由がセクハラやパワハラといった会社に問題がある場合は、「特定理由離職者−2」になるケースもあります。
それぞれの分類の違いは次のようになります。
特定受給資格者は一番メリットが大きく、必要な雇用保険の加入期間が6ヶ月となり、3ヶ月の給付制限期間がなく、給付日数も長くなります。
一般受給資格者は最低12ヶ月間の雇用保険の加入期間が必要となり、3ヶ月の給付制限期間があるため、すぐに失業保険を受け取ることができず、給付日数の優遇も受けることができません。失業保険をすぐに受け取ることができないので、再就職先を探した方がいい場合も考えられます。
退職理由はどこで判断するのか?
ハローワークは、退職者本人の主張を元に退職理由の分類をするわけではありません。退職理由は「離職票ー2」に記載されている「離職コード」を確認します。ハローワークでは離職コードを元にどの分類に該当するか判断します。
離職票は会社側が作成するものであり、離職コードも当然会社側で記入します。適切な区分に○が付いているか必ず確認しましょう。
ハローワークは、離職票を見て退職理由を会社に確認を取る場合があります。会社からすれば不都合な事実があれば隠そうとするかもしれません。
実際は「契約期間満了による退職」(離職コード2D)であったにもかかわらず、「正当な理由のない自己都合退職」(離職コード4D)になっていれば、ハローワークに相談しましょう。このまま手続きを進めてしまうと3ヶ月の給付制限が付いてしまいます。
また、会社の倒産などで離職票そのものが受け取れないというケースもありえます。この場合もハローワークへ相談してください。
次の項からは特定受給資格者と特定理由離職者の条件に付いて詳しく見ていきます。
特定受給資格者の認定条件
『特定受給資格者』とは、倒産や強制的な解雇など、会社都合による理由で退職した人が該当します。一般の自己都合退職者よりも優遇された条件で失業保険を受け取ることができます。
まず、離職前の1年間において雇用保険の加入期間が通算6ヶ月以上必要です(一般受給資格者は1年間の加入期間が必要)。
加入期間が6ヶ月以上であれば、次のような条件に該当する人が特定受給資格者に分類されます。
- 「倒産」等により離職した者
- 倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申し立てまたは手形取引の停止等)に伴い離職した者
- 事業所において1ヶ月に30人以上の離職を予定する届け出が出されたため離職した者(※)および事業所に雇用される被保険者の3分の1を超える者が離職したために離職した者
(※)このような場合において事業所は再就職援助計画の作成義務があり、再就職援助計画の申請を事業所が行った場合、特定受給資格者に該当します。また、事業所に30人以上の離職者がおらず、再就職援助計画の提出義務がない場合でも、事業所が規模の縮小などで再就職援助計画の提出を行えば特定受給資格者に該当します。 - 事業所の廃止(事業活動停止後の再開の見込みがない場合も含む)に伴い離職した者
- 事業所の移転により、通勤することが困難となったために離職した者
- 「解雇」等により離職した者
- 解雇(重大な自己責任による解雇を除く)により離職した者
- 労働契約の締結時に提示された労働条件と、実際の労働条件が大きく異なることにより離職した者
- 給料の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
- 給料が以前に支払われていた金額の85%未満に低下し(または低下する予定である)、かつそのことが予想できなかったために離職した者
- 離職の直前の6ヶ月間のうち、
1.いずれか連続する3ヶ月で45時間
2.いずれか1ヶ月で100時間
3.いずれか連続する2ヶ月以上の労働外時間を平均して1ヶ月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者
に該当する者で、事業主が危険もしくは健康障害のおそれのある旨を行政機関から通知されたにも関わらず、危険もしくは健康障害を防止するための措置を取らなかったため離職した者 - 妊娠、出産、子供の養育、家族の介護を行う者に対して、雇用の継続等を図るための制度(育休制度など)の利用を不当に制限した、あるいは制度の申し出を申請した・利用したために不利益な扱いを受けたことにより離職した者
- 事業主が労働者の職種転換等に対して、職業生活に必要な配慮を行っていないために離職した者
- 有期契約で3年以上雇用されていたが、更新がされなかったために離職した者
- 有期契約で「契約更新あり」と明示されているにもかかわらず、更新がされなかったために離職した者(上記8に該当する場合を除く)
- 上司や同僚からパワハラやセクハラ、嫌がらせなどを受けたことによって離職した者。また、事業主がセクハラの事実を把握していながら必要な対策を取らなかったために離職した者
- 事業主が職場の妊娠、出産、子供の養育、家族の介護を行う者に対する言動によって、労働環境が害されている事実を把握していながら、必要な対策を取らなかったために離職した者
- 事業主から直接または間接的に退職するように勧められたことにより離職した者(※従来から「早期退職優遇制度」がある職場で、これに応募して退職した場合は該当しない)
- 事業所が法令違反などにより、3ヶ月以上の休業となったことにより離職した場合
- 事業所の業務が法令に違反したために離職した者
特定受給資格者に該当する主な理由は、会社の倒産や一方的な解雇ですが、給料の低下やパワハラ・セクハラなども認められます。ただし、具体的な証拠がなければ、訴えだけでは難しいでしょう。
例えば給料の低下を理由に退職したのであれば、給与明細を元にどれだけ変動したのかハローワークの職員に説明する必要があります。退職を考えた時点で、可能な限り証拠を揃えていきましょう。
特定理由離職者の認定条件
「特定理由離職者」とは病気や家族の介護など、一定の理由で退職した人が該当します。理由により、「特定理由離職者−1」と「特定理由離職者−2」に分かれています。特定理由離職者も特定受給資格者と同様に、雇用保険の加入期間は6ヶ月となります。
特定理由離職者の条件の詳細は次のようになります。
- 有期契約での期間が終了し、かつ、契約の更新を労働者本人が希望したにもかかわらず、契約更新の合意に至らなかったことにより離職した者。
※特定受給資格者にもよく似た条件がありますが、こちらの条件は『「契約の更新をする場合がある」と契約更新について明示されているが、契約更新を確約していない』という場合が該当します。 - 以下の正当な理由のある自己都合により退職した者
- 体力の不足、心身の障害、疾病、けが、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退などにより離職した者
- 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
- 父または母の死亡、疾病、けが等のため、常時介護をする必要があり離職を余儀なくされた者
- 配偶者または扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となり離職した者
- 次の理由により、通勤不可能または困難となったことにより離職した者
- 結婚に伴う住所の変更
- 育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用または親族への保育の依頼
- 事業所が通勤困難な場所へ移転
- 自分の意思に反して引越しが必要となった
- 鉄道やバスの運行時間の変更または廃止
- 事業主の命令による転勤や出向に伴う別居の回避
- 配偶者の転勤や出向、または配偶者の再就職に伴う別居の回避
- その他、「特定受給資格者」の範囲の2の11に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者
特定理由離職者ー1は、「更新する可能性があるが、更新するかどうかは確約していない」というかなり限られた条件で認められます。雇用契約書を確認して、該当するか確認しましょう。
特定理由離職者−2は、実際には自己都合による退職ですが、退職せざるをえない状況であったとして通常の自己都合退職者(一般受給資格者)とは違う分類になっています。
まとめ
このように退職理由を元に失業保険の受給資格の区分は異なり、給付日数などの条件が変わります。離職票が届いたら、まずは離職コードを確認してください。