健康保険のある会社に就職した場合、健康保険料は会社と本人が折半して支払いますが、退職後に国民健康保険に切り替えた場合は全額自己負担となります。
では、少しでも健康保険の支払いを減らす方法はあるのでしょうか。健康保険の切り替えは退職後すぐに行わなければいけないので、退職までにどんな制度なのか、仕組みや条件を理解しておく必要があります。
この記事では退職後の健康保険の手続きや選び方について解説します。
失業後の健康保険の選び方
国民健康保険以外にも選択肢はあります。退職後の健康保険は大きく分けて次のようになります。
- (すぐに再就職する場合)再就職先の健康保険に加入
- (退職前の会社で2ヶ月以上健康保険に加入していた)任意継続制度に切り替え
- (特別退職被保険者制度を利用できる場合)特例退職被保険者になる
- (年収が130万円未満かつ家族の半分以下の場合)家族の扶養に入る
- (上記いずれもできない場合)国民健康保険に加入
いずれも治療費の自己負担割合は3割です。
退職後すぐに再就職する場合は、再就職先の会社に手続きを行ってもらえます。ただし、再就職といっても会社の健康保険の加入対象者に当てはまらない場合(短時間のパートなど)は、他の健康保険の加入を検討する必要があります。
次項から再就職以外の選択を見ていきます。
健康保険の任意継続制度に切り替える
退職後も前職の健康保険制度を利用できるのが『任意継続制度』です。前職の健康保険の加入期間が2ヶ月以上あった人は2年間の間だけ、任意継続制度を利用できます。2年間を過ぎた後は国民健康保険への切り替えが必要になります。
任意継続制度の保険料は全額自己負担となりますが、保険料に上限があります。そのため前職と変わらない保険料になる人や、国民健康保険に切り替えた場合よりも安くなる人がいます。
国民健康保険は前年の所得に応じて変動するので、国民健康保険に切り替えた場合、退職前の収入によっては大幅に高くなることがあります。退職前に収入が多かった人ほど任意継続制度に切り替えるメリットが大きいと言えます。
特例退職被保険者になる
『特例退職被保険者制度』とは、市区町村の代わりに厚生労働大臣の認可を受けた特定健康保険組合が運営する退職者医療制度です。在職中にこの組合に入っていた人だけが、条件を満たせば退職後も「特例退職被保険者」として、特定健康保険組合の健康保険を利用できます。
加入条件は、次のどちらかです。
- 特定健康保険組合の被保険者期間が退職日までに20年以上ある
- 40歳以降で被保険者期間が10年以上あり、老齢年金の受給資格者である
特定健康保険組合は、大企業の健康保険組合であるケースが多く、その中で勤続年数が長い人が特例退職被保険者制度を利用できるということになります。
特例退職被保険者の特徴
他の健康保険制度とは違う、独自の運営をしていることが特徴です。次のようなメリットがあります。
- 退職直後は国民健康保険に切り替えた場合よりも保険料が安くなることが多い
- 医療費の自己負担額が一定額を超えると、一部還元されるなど独自の給付金がある
- 特定健康保険組合の運営する保養施設が利用できる
保険料も独自に定めているので安くなることが多いですが、国民健康保険は前年の収入に応じて変動するので、収入がない状態が続くと保険料は下がっていきます。国民健康保険とどちらがいいのか、よく検討した上で選んでください。
家族が会社の健康保険に入っている場合は、家族の扶養に入るというのもあり
退職後に病気などで働くことができず、自分の収入では生活が維持できなくなる場合は、家族の扶養に入る立場です。3親等以内の親族が扶養者になることができ、両親や兄弟、配偶者、あるいは子どもや孫が成人して働いているなら子どもや孫も扶養者になります。
扶養される本人(つまり自分)の年齢が60歳未満なら年収130万円未満、年齢が60歳以上なら180万円未満が条件です。
同居の場合 | 被扶養者となるひとの年収が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、扶養者となる家族の年収の2分1以下であること |
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別居の場合 | 被扶養者となるひとの年収が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、扶養者となる家族からの援助額(仕送り額)よりも低いこと |
国民健康保険と違う点として、扶養されている家族は保険料の支払いがありません。扶養者である本人1人分の保険料で家族全員が加入できます。
また、75歳以上の人は「後期高齢者医療制度」に加入するので、健康保険の加入対象者ではなくなります。
手続きは扶養者となる家族の会社を通じて、年金事務所または健康保険組合等に次の書類を提出してください。
- 被扶養者届
- 健康保険被保険者証
- 収入を証明する書類(課税証明書など)
- 住民票などの証明書(同居している条件で手続きする場合は、同居が証明できるもの)
- マイナンバー
国民健康保険に加入する場合
任意継続制度など他の制度が利用できない場合は、国民健康保険に切り替えが必要です。退職してから14日以内に手続きを行います。市町村役場に健康保険の「被保険者資格喪失証明書」を持って行きましょう。自分が家族を扶養している場合は、家族の分も国民健康保険に加入が必要です。
国民健康保険は前年の所得に応じて保険料が変動します。また、自治体によって保険料が異なり、会社員時代に収入が多かった人は保険料の支払いが高くなります。退職した年の保険料の負担はかなり大きいでしょう。
就職しない状態が続き、収入がなければ保険料の支払いは小さくなっていきます。一方、自営業やパート・アルバイトなどで収入を得ている場合は保険料が上がっていき、収入が大きいと在職中の数倍になることもあり得ます。
加入する健康保険による違いの比較
健康保険の種類 | 任意継続 | 特例退職被保険者 | 家族の扶養に入る | 国民健康保険 |
---|---|---|---|---|
加入要件 | 退職日までに健康保険の加入期間が継続して2ヶ月以上あること | 在職中に特定健康保険組合に入っており、20年以上保険加入期間があること。 または40歳以降で被保険者期間が10年以上あり、老齢年金の受給資格者であること。 | 同居している家族の場合…年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、その家族の年収の2分の1以下であること 別居している家族の場合…年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、その家族からの援助額(仕送り額)よりも低いこと | 会社に勤務しない人、または他の健康保険制度に加入しない人 |
手続き | 退職日の翌日から20日以内に年金事務所または健康保険組合に申請書を提出する | 退職時に加入していた特定健康保険組合に「特例退職被保険者資格取得申請書」を提出する | 扶養者である家族の事業所を通じて「被扶養者届」を提出する | 住民となった日または退職日の翌日から14日以内に市区町村の役場に資格取得届を提出する |
自己負担の割合 | 本人・家族ともに3割負担 | 本人・家族ともに3割負担 | 本人・家族ともに3割負担 | 本人・家族ともに3割負担 |
保険料 | 在職中の約2倍になる。 ただし上限額が加入している組合毎に定められているため、在職中と変わらないこともある。 | 組合ごとに異なる。国民健康保険のように年収に応じて増減することはないので、国民健康保険よりも安くなることが多い。 | 扶養者である家族の保険料のみ。 | 在職中の約2倍になる。市区町村ごとに保険料は異なり、前年の年収に応じて増減する |
保険給付 | 高額療養費 出産育児一時金等 | 独自の給付金や組合の保養施設が利用できる | 高額療養費 出産育児一時金等 | 高額療養費 出産育児一時金等 |
加入期間 | 2年間または再就職して会社の健康保険に加入するまで。 ※一度でも保険料の支払いを忘れると2年間の間でもその時点で終了となる。 | 75歳まで(後期高齢者医療制度が適用されるまで)。 ただし一度加入した後は再就職しない限り中途脱退できない。 | 扶養者である家族が会社に在職している間 | 再就職して会社の健康保険に加入するまでの間、またはその市町村に住んでいる間(引っ越しした場合は引っ越し先で手続きが必要) |
健康保険の加入手続きを行わなければどんなデメリットがあるのか
日本の法律ではいずれかの公的医療保険に加入しなければいけません。この制度があるため医療費の自己負担は3割に抑えられています。退職後、いずれかの健康保険に加入手続きを行わなかった場合、医療費は全額負担となってしまいます。例えば10万円の医療費がかかった場合でも、実際の支払い額は3割の3万円で済みますが、健康保険に加入していなければ10万円全額を支払いします。このようなことがないように退職後はすぐに手続きを行いましょう。
まとめ
再就職しない場合は、基本的には国民健康保険に入ることになるでしょう。ですが他の健康保険制度に入ることができる場合もあるので、できれば退職までに調べておき、保険料の支払いを少しでも安くしておきたいですね。特に在職中の収入が多い人ほど国民健康保険の支払いは大きくなるので、退職した年の保険料はかなりの負担になります。選択肢は事前に検討しておきましょう。
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